少し鮮度は落ちた感がありますがやはり未だに影響力を持っている話題ですよね。
海外の大学と合わせることで留学しやすい体制をつくる、春試験、秋入学による半年間の「ギャップターム」を設けることで、受験マシンだった卒業者に様々な活動に打ち込むゆとりを与える…あたりが秋入学導入の目的として言われていることです。
筑波大学も検討している秋入学。追随する大学は増えており、これはもはや避けられないのかもしれません。しかしこれはおべんきょーをするための大学生活にはいいことなのかもしれませんが、スポーツの観点から見ると色々と厄介な点を抱えているように思います。
僕は陸上選手なのでやはり陸上を主体にしてしか話を進められないのですが、まず秋というともうシーズンも終盤なんですよね。陸上に限らず屋外スポーツはだいたいそうだと思います。サッカーやラグビーはピークが少しずれて12月あたりになっているでしょうか。ウィンタースポーツはまぁ出来るところも限られているということで置いておきましょう。やってる人には申し訳ないですが。
スポーツの練習って1年間同じ事をしているわけではなくて、季節や試合によって区分けがされているものなんです。よくあるのは準備期(基礎的な体力作り)→試合期(専門的・応用的な練習)→移行期(身体のリフレッシュ)→準備期…みたいなのですね。時期によって量を追込んだり、質の高い練習を短くスパッとやって終わりだったり、遊んだりするんです。
春入学である現状は、春先が準備期、夏から秋にかけて試合期、秋冬に少しの移行期を挟んで、冬から春にかけて準備…というのが一般的です。単に入学時期だけでなく、日本のもつ四季も関係しています。夏はよく体が動く反面暑さで体がバテるので質の高い練習を短く済ませるのに適していますし、冬は寒さで体が動きづらいため無理に質を高めようとすると怪我のリスクが高まることから質を少し落として量を追い込むのに適しているのです。
また、アスリートには「ピーキング」というものが求められます。すなわち上がったり下がったりのサインカーブを描く自分の体の調子を、試合のときに最高の状態に持っていくというものです。「最高の状態」というのは普通は1年に1度、良くて2度ぐらいになるものです。夏に調子が良かったのに秋になって落ちるなどというのは、夏がピークでそこから下降していったものだと考えられます。ピーキングは僕自身のクラ対での失敗に見る通り非常に難しいものなんです。
さて、ここでスポーツを幾つかに分類して考えたいと思います。今回は「屋内スポーツ」「夏・秋にピークが来る屋外スポーツ」「秋・冬にピークが来る屋外スポーツ」の3つで考えてみましょう。
1つ目の屋内スポーツはバスケットボールやバドミントンなどが相当します。これはあまり秋入学の影響を受けないかもしれません。練習が季節に左右されるわけではないので、区分けをずらすことで対応出来るかなといったところ。
2つ目の夏・秋にピークが来る屋外スポーツは陸上・野球あたりですかね。これは準備期が長くなると捉えれば良いのかもしれません。秋に入学した後、半年以上もの長い準備期を経て、ようやく大会を迎えるといった形。しかし準備期間が長いことは必ずしも良いことではなく、ピーキングがより難しくなるとも言えます。もしかすると1年目はいい結果が出ないかもしれませんね。
問題は3つ目の秋・冬にピークが来る屋外スポーツ。サッカー、ラグビー、あと駅伝もですね。これらのスポーツでは入学後すぐにピークを迎えるということになります。当然ろくに準備期の練習を積めていないわけですから、ルーキーが活躍できないという状況をもたらすでしょう。現役期間が実質的に1年減ることになるのです。
早稲田大学も秋入学を検討していますが、スポーツ推薦などで入学できる大学ならば現役期間の減少を見過ごすとは思えません。となると考えられるのは「春入部」です。試験は春のままなのですから、年度明けには「入学予定者」というのが決まっているわけで、それが秋・冬のピークにある大会で活躍が望めるような人材ならばなにも「ギャップターム」などいったゆとりを与えなくてもいいのです。特にスポーツ推薦というのは大学でスポーツをすることを望まれて入学を許可されたのですから、別に他の活動に打ち込んでもらわなくてもいいと。そうなると今度は「入学」という言葉の意味もせっかく秋入学にした意義も揺らいできそうですけどね。
あるいはスポーツをやる学生のみ春入学をする複線化という方法もあるそうですが、複線化はコスト面で障害が大きいとのこと。まぁ学生側からしても面倒だと思います。
ここまで書いてみて、なぜ体育専門学群を有する筑波大学が秋入学検討になるのかものすごく疑問に感じます。
そもそも筑波大学は3学期制にすることで海外の大学と休みの時期なんかを揃えていたわけですから、別に秋入学に追随しなくても国際化という面では問題はなかったのではないかと思います。それなのに国内で休みがずれてるのが都合悪いから2学期制(正確には2学期6区分制)に移行しその上で秋入学化なんて言ってるんですからもうめちゃくちゃです。いっそなにもしないほうがよかっただろうと思うぐらいに。
秋入学は欧米の大学をモデルにしていますが、そういった地域の学生スポーツはどういった形態で運営されているのかも気になりますね。
秋入学化は単なる大学のシステム変更に留まらず社会の様々な構造を変える契機になりそうですが、スポーツもどのように変わっていくのか今後も注目したいところです。
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