前々からやりたいと思っていたのが、1年間勉強してきた内容を元に文章を書こうという企画でした。
ということで総復習と銘打ってみたのですが、今の構想だとほぼ3学期の現代スポーツ論の復習になりそうな感じです。
何回かに分けて書くつもりで、今日は1回目。今日私達がスポーツと呼んでいるものの源についてです。
"sport"の語源はラテン語で「休養・気晴らし・娯楽」を意味する"deportare"から来ています。これがフランス語で"desport"という形になり、14世紀のイギリスでさらに"disport"という形になります。"disport"はdis/portと区切ることが出来、港-転じて労働力-を意味する"port"に接頭辞"dis"がついて「苦役からの解放」を意味するようになります。それが16世紀頃に"di"の部分がなくなって"sport"となり今に至るとされています。
"sport"は翻訳を必要としない普遍的な概念ですが、アメリカ英語では普通"sports"と表記されその意味合いもrecreationという面が大きいのに対しイギリス英語では"sport"と表記されその意味合いはleisureという面が大きいとのこと。解釈について地域差が生まれる部分もありうるということですね。例としてはチェスをスポーツと表現することが挙げられます。私たちはスポーツを身体運動として捉えがちですが、スポーツのもつ遊戯としての側面を拡張させるとこの解釈も不自然ではありません。
異なる解釈が存在することは多様性を生み出す反面論争の種にもなりかねません。20世紀以降スポーツが国際化していくにつれ根底に共通理解が必要となり、1968年のメキシコオリンピックのときにスポーツ宣言というものが出されました。そこでスポーツは「遊戯の性格を持ち、自己または他人との競争、あるいは自然の障害との対決を含む運動」と定義されました。
今日私達が言うところのスポーツは近代以降の概念ですが、スポーツ的な身体文化は古くから存在していました。
古代ギリシャではスポーツは音楽・弁論術と並ぶ市民の必須教養でした。人々は彫像として表現される神々の肉体美に近づくため、複数種目に取り組んでいました。また古代オリンピックのような競技会も開かれ、競技の結果によって神々の意向を占うものから死者を葬送するもの、神々に豊穣を祈るものとその意味合いは様々に変化して行きました。しかし都市国家が成熟するにつれて競争としての意味合いが強まり、”勝利”がもつ価値が高まっていくと報奨金を目当てに競技会を渡り歩くプロが登場したり、賄賂が横行するなどそれ以前の文化的価値が失われ腐敗していきました。また、古代ローマでは最初市民の肉体鍛錬としてスポーツが用いられていましたが、軍事力を傭兵に頼るようになったことでその意義が失われ、スパルタカスと呼ばれる剣闘士が死を賭して戦うさまを見せ物にするというスペクタクルとして発展していくことになるなど、聖なるものであったスポーツが俗なものへと堕ちていくという経緯がありました。
中世のヨーロッパでは農民などの庶民と騎士や貴族といった上流階級とで異なるスポーツが発展していきました。この頃が前述した"disport"としてスポーツが捉えられる時代になるのですが、農民などは労働という苦役から解放される楽しみや非日常感、無秩序性に重きを置き、憂さ晴らしとしてスポーツを楽しんでいました。その様子は古代のスポーツの経緯から言うと俗なものであり、具体的にはモブ・フットボールと呼ばれる殴り合いを伴うようなフットボールや動物同士を戦わせるクルーエル・スポーツと呼ばれるものがありました。一方上流階級は金も暇もあるがゆえに退屈という苦役に苛まれていました。そこで自らがコントロール出来ない課題を設定し、それを克服するということに楽しみを見出すようになります。そのために自然環境のもつ不確実性が利用されました。この頃の貴族の間で流行したスポーツにはキツネ狩りがあります。自らの意志とは関係なく動く対象を仕留めるという困難を克服する、それにより退屈という苦役から解放されていたのです。更に長い時間をかけて楽しむため、キツネは生け捕りにするとか、動物を調教してそれにキツネを狩らせるなど縛りをどんどん強めていきます。こういった経緯からスポーツの概念には「野外」だとか「非暴力」といった要素が含まれるようになっていき、それが今日のスポーツ観にも通ずるということになっています。
スポーツ観には上流階級の考え方がある程度現れたものになっていますが、時代の趨勢によって上流階級は没落していき、産業資本家がのし上がっていくことでスポーツの担い手は変化していき、スポーツの発展という面では庶民的な考え方が広がっていくことになります。そして両者は近代になって交わることになります。
なんか思ったより長くなっちゃったので近代以降は次に回そうと思います。
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