14日に文京シビックホールで開催された「東京オリンピック・パラリンピックキックオフイベント 2020年へ夢をつなごう!」に行ってきました。
フジテレビの須田哲夫氏の司会による進行のもと、第Ⅰ部が柔道の山下泰裕氏の基調講演、第Ⅱ部が山下氏と体操の冨田洋之氏、女子サッカー監督の佐々木則夫氏、車いす射撃の田口亜希氏によるトークセッション、第Ⅲ部がオーケストラのコンサートという構成になっていて、僕はⅡ部まで聞いて(空腹に負けて)帰りました。ハイカルチャー理解できない系男子っぽくてダメですね。
山下氏の基調講演では、今までの競技人生の振り返りや、モスクワ五輪のボイコット、ロス五輪での金メダルのエピソードを振り返ったあと、オリンピアンとパラリンピアンの待遇格差などの話題にも触れ、最後には「2020を目指していく中で、スポーツの裾野が広がっていくのが理想」というオリンピック・レガシーの在り方を述べるというものでした。
ロス五輪でのラシュワン選手との決勝戦の話についても触れておられましたが、これをフェアプレーと捉えるかは『
スポーツ倫理学講義』という本に書かれていた内容が面白かったなというのを思い出しました。
全体としてはやはり「スポーツ」というものに真摯に向き合っておられる方だけあるなという、大衆向けでありながらもエッセンスは織り込んである、示唆に富んだ講演でした。
トークセッションでは事前に子どもから受け付けた質問を4人に投げるという形で、司会の須田氏によって軽快に進んで行っていたのですが、このセッションにはいくつか気になる点が。
まず質問の内容が「強い選手になるためには」というところに偏っていたこと。「子どもからの質問」というエクスキューズがあったとはいえ、オリンピック・パラリンピックを競技イベントとしてしかとらえていないのでは第Ⅰ部の山下氏の講演が台無しだったのではないかなと感じました。
次に、「強い選手の育て方」というテーマでは、山下氏から「強ければ(※競技力が高ければ)いいというものではない。諸外国のように、様々なスポーツに触れる機会が必要」という意見や、佐々木氏から親の過熱化を諌める旨の発言があったのですが、「次の世代の選手をいかにして発掘するか?」というテーマに対しては、当の佐々木氏から「U14やU17といった若い世代からの一貫指導」という矛盾した発言が出てしまったこと。壇上に立っている方々の間でもいまだにこういった認識の乖離があるのは残念でした。市民スポーツと競技スポーツの間に境界があるような感覚、これをいかに取り除くかこそを語り合う場だと思っていたんですけどねぇ…
そしてなによりも恐ろしかった(こう表現する他ない)のは、司会の須田氏のリーディング。オリンピック・パラリンピックを捉えていないかのように語らせる場を作り出しているのは、そのように質問を投げかけ、話を聞き、膨らませる須田氏なのです。そういった話を、聴衆は喜んで聞いている。須田氏は徹底的に聴衆を楽しませている。おそらく、オリンピック・パラリンピックや、そのレガシー、これからのスポーツ界がいかなるものとなるべきか、そんな話よりも、トップスポーツに関わる人々の、ある意味で彼岸の話、それらの方が聴衆を惹き付ける。それがわかっているからその方向へ導く。おそらくアナウンサーとはそういう仕事なのだろうと痛感させられました。僕はシンポジウム的なものを期待してこの場に行ったわけですが、須田氏のリーディングによって実際にはかなりエンターテインメント性の強いものになっていました。まぁ確かにタイトルも「シンポジウム」ではなく「キックオフ"イベント"」なので間違ってはいないのですが…
また、印象深かった点として、田口氏がパラリンピックそのものの地位向上を志向して発言していたことでしょうか。これは非常に意義のあることだと思います。
障害者スポーツというのは競技スポーツ/市民スポーツ以上に無意識な線引がなされやすいもの(自戒)かと思いますが、パラリンピックがオリンピックの影に埋もれるとなってしまっては豊かなスポーツ社会が保障されているとは口が裂けても言えませんしね。
全体的な総括として、かなりキツイ表現ですけれども、オリンピック・パラリンピックの意義や理想像を再構築するというよりは、既存の意識をなぞって悦に入ってるという印象もなくはなかったかなと。
2020年へつなぐものが泡沫の夢であってはならない。2021年やその先までも続く夢をみんなで考えるような場がこれからもっと増えてほしいものです。
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